前回の投稿(ティルト・シフトレンズで建築写真を撮影する方法 Vol.1)で紹介した内容は、ティルト・シフトレンズで真上方向へのシフト(ライズ)調整した場合の説明でした。
建築物の外観写真撮影時によく使うのは真上方向へのシフト(ライズ)調整ですが、ティルト・シフトレンズでは真上方向にシフトする以外にも様々な使い方が可能です。
今回は建築写真を撮影する際にティルト・シフトレンズで、実際にどのような調整を行っているのか紹介します。
レンズの回転とシフト機能
まず初めにティルト・シフトレンズの機構の説明です。
キヤノンのティルト・シフトレンズ「TS-E」シリーズでは、レンズを回転させてティルト・シフトの方向を変えることができます。(クリック角度は30度ごと)
これにより、従来上下方向のシフト調整しかできなかったものが左右斜め方向にもシフト調整できるようになりました。(ニコンのティルト・シフトレンズ「PC」シリーズも同じだと思います)
横方向や斜め方向にシフト調整する際には、まずは30度、60度、90度、120度…と任意の角度にレンズを回転させ、その後シフト調整を行います。
それではどのような場面で上方向以外のシフト調整を使用するのか、実際の写真を用いて説明していきます。
今回も使用した撮影機材は、ティルト・シフトレンズ「 CANON TS-E17mm F4L 」です。
左右にシフト調整する
写真『A』は、黄色線で示した襖を中心として、建物の室内と縁側・庭園を二分する形で撮影しています。
しかし、この場面では室内よりも庭園側をより多く見せたいと考えました。
通常のレンズであれば、画角内の庭園の要素を増やそうと考えた場合、縁側に移動して撮影すると思いますが、そうすると写真の主題が縁側になり、室内側のインパクトが薄れてしまいます。
難しい言葉で言うと、一点透視の消失点が襖から縁側に変わってしまうのです。
ティルト・シフトレンズのシフト機能を用いればそれらの問題点を解決することができます。
写真『A』のカメラ位置から、ティルト・シフトレンズを反時計回りで90度まで回転させて、その後シフト機能でレンズを左方向にズラして、写る範囲を画面の左方向に調整していきます。
縁側・庭園と室内のバランスがちょうど良いところで調整を止めて撮影したものが写真『B』になります。
割合で言うと縁側・庭園6割、室内4割くらいになりました。
庭園側の樹木も画角におさまり、且つ一点透視の消失点は変わらず襖のままなので室内側もしっかりと見せることができており、意図した表現が可能となりました。
上記は、写真【B】のシフト調整時のレンズの動き方の再現。(実際のシフト量とは異なります)
下方向にシフト調整する
「基本的に建築物は高さがありそれらを地上から撮影することが多いため、建築撮影で使用することが多いのは上方向に調整するライズの方です。」とVol.1の際にも言いましたが、条件によっては下方向にシフト調整するフォールを使用する場合もあります。
写真『C』はフォール(真下方向180度にシフト調整)して撮影したものですが、主題となる建築物がどのような街並みの中に存在するのかを表現することができました。
写真『D』は、建物内観を撮影したものです。
こちらの写真は建物二階部分を中心としつつ、吹き抜けの一階部分の情報も見せたいという意図のもと、フォール(真下方向180度にシフト調整)して撮影しました。
上記は、写真【C】【D】のシフト調整時のトレンズの動き方の再現。(実際のシフト量とは異なります)
斜め方向にもシフト調整可能
キヤノンのティルト・シフトレンズ「TS-E」シリーズでは、レンズを回転させる際のクリック角度は30度ごとになっています。
つまり上下左右だけでなく、斜め上や斜め下方向にもシフト調整することが可能です。(厳密に言うとクリック感のない中間角度でもシフト調整可能です)
写り込みを防ぐためにシフト調整?
余談ですが、メーカーは内観撮影時に鏡などの反射物と正対した際に、カメラが写り込むことを防ぐ目的でもシフト機能をPRしていますが、正直言ってあまりその目的では使用しません。
シフト調整を行うと写真の中心位置がズレますが、写り込みを防ぐことが目的な場合にはそれは構図的に作画上意味があってシフト調整しているわけではないので本意ではありません。
撮って出しである必要がないのであれば、Photoshopなどで写り込みを削除した方が仕上がり面では優れています。
まとめ
ティルト・シフトレンズのシフト機能を用いれば、上下左右斜め方向に自在に写る範囲を調整することが可能になるとお分かりいただけたでしょうか。
もちろんシフト調整は無作為に使うものではなく、自分の表現を成立させるために画面構成上必要と判断したときに使用します。
建築写真の撮影時にはその機会が多く存在するということです。