FUJIFILM GFX100S
関西を拠点に活動しております、建築写真家の貝出翔太郎です。
富士フイルムの中判ミラーレスカメラ『FUJIFILM GFX100S』を導入してから、仕事やプライベートでの撮影で数ヶ月間使用してきたので、その実際の使用感などを建築写真家の目線からレビューします。
画質について
FUJIFILMの色再現性
色に並々ならぬこだわりを持つ富士フイルムなので、JPEG撮って出しの状態でとても良い色で描き出してくれます。
建築撮影でテザー撮影している時などは、クライアントにJPEG撮って出しの画像を見せることになるので、カメラで生成されるJPEG画像が見栄えがするというのはかなり助かります。
RAW現像時でも、富士フイルムの色味はスタート地点としてすごく素直で使いやすい印象です。
ダイナミックレンジ
RAW現像時のダイナミックレンジは、驚くほどに広く優れています。
シャドウ側のデータは、真っ黒な暗部を持ち上げても非常にクリーンな画像を得ることができます。
ここまでシャドウが戻ってくるのかと驚くほどのレベル。
アンダー目に撮影しておけばいくらでも救済できる懐の深さがあります。
RAW現像を業務で行なっている者は、これ以上のレタッチは厳しい、実用にならないという自分のカメラのレタッチ耐性の限界値を理解しています。
FUJIFILM GFX100SのRAWデータは、普段フルサイズセンサーを使用している私の考える限界値を易々と更新してしまいました。
さすが中判デジタル、さすがラージフォーマット。
ただし、ハイライト側は予想外というかそんなに粘りません。
他社フルサイズミラーレスと同等か少し良い程度な印象。(それでも十分優秀なんですが)
ラージフォーマットとはいえ「(RAW現像前提の)デジタルでの撮影はアンダー目に撮る」という決まり事は従来通り変わりませんでしたが、フルサイズセンサー機よりもずいぶん無茶が効くので、より一層自分の思い通りのレタッチが可能になりました。
画素数1億200万画素/102million pixels
FUJIFILM GFX100Sで撮影した写真は、どこまで拡大しても写っていると言っても過言ではないくらいディティールを鮮明に記録することが可能です。
とくに富士フイルム純正レンズ使用時の写りは惚れ惚れします。
解像感に対するひとつのアプローチとして高画素機を使用するというのは、至って真っ当なことだと思います。
GFXの場合、センサーサイズが35mmフルサイズよりも約1.7倍大きいラージフォーマットですので、高画素化に伴う一般的なデメリット(画素ピッチが小さくなることによる高感度画質の低下など)の影響は少なくなります。
また、センサーサイズが大きいことにより35mmフルサイズよりも回折現象(別名:小絞りボケ レンズの絞りを絞りすぎると解像感が低下する現象)を恐れずに絞りを選択できるので、1億画素と相まって緻密な描写を得ることが可能となります。
これらの事柄は、パンフォーカスを多用する建築写真や風景写真では非常に効果的です。
FUJIFILM GFX100Sが建築撮影業務で有効だと思う点に、超高画素ゆえの圧倒的なトリミング耐性も挙げられます。
例えば「Canon TS-E24mm F3.5L ll」を使用する際、ラージフォーマットで使用した場合35mm判換算19mm相当(1億画素)に、35mmフォーマットモードで使用した場合35mm判換算 24mm(約6,000万画素)に、そこから現像時に1.5倍クロップして35mm判換算 36mm相当として使用しても画素数約2,600万画素になり、まだまだトリミングする余裕もあります。
そこまでトリミングして使うことは稀ですが、縦位置撮影したカットを最終的に横位置で使いたい場合など、高画素ゆえに対応できるシーンは業務では意外とあるので便利だなと思います。
そもそもの1億画素の是非ですが、普段使いではまず必要ないほどの画素数だと思います。
業務上や美術的観点から高画素が必要とされる場合にはいいと思いますが、「画素数が多いから良いカメラなハズ」みたいに思っている方は自己満足になってしまうのでやめておいたほうがいいと思います。(データ的にもサイズ的にもお財布的にも軽い、FUJIFILM Xシリーズでたくさん写真を撮る方がよっぼど上達すると思う)
富士フイルムに一つ要望があるとすれば、高解像が不要な場面やデータ容量を節約したい場面で、少ない画素数でRAWデータを軽くして記録できる機能がGFXシリーズにも欲しいです。(中判カメラで1.5億画素の『Phase One IQ4』 にはすでに搭載されている機能)
GFX100SかGFX50SⅡのどちらにするか
GFXを導入する際に、1億画素のFUJIFILM GFX100S か、5,000万画素のFUJIFILM GFX50SⅡにするかで迷っていました。
というのも、FUJIFILM GFX100S は1億画素ゆえに画素ピッチが小さく、ダイナミックレンジが5,000万画素のFUJIFILM GFX50SⅡ に劣るかどうかを危惧していたからです。
そんな時に知り合いの方から、両機種のRAWデータを提供いただいたので、実際にRAW現像してダイナミックレンジを比較することができました。
その結果、FUJIFILM GFX100Sは高画素化したにもかかわらず、ダイナミックレンジにおいてFUJIFILM GFX50SⅡと同等だと判断して、FUJIFILM GFX100S の方を導入することに決めました。
結果、FUJIFILM GFX100S にして正解だったと思っています。
高感度性能
高感度画質に関しても、他社フルサイズカメラと比べてもかなり優れている印象です。
上記の作例の場面は、日没後かなり暗くなった状況でしたがISO感度を6400まで上げて、手持ちで撮影することができました。
非常にノイズが少なく、高感度にもかかわらず色もよく再現されています。
超高画素なのに高感度耐性が良いというのは今までの経験からすると逆なんですが、センサーサイズの大きさと最新のセンサーの恩恵なんでしょう。
ボディ内手ぶれ補正
三脚使用前提だったので、手ぶれ補正に関してはあまり着目していなかったのですが、これがあるお陰でFUJIFILM GFX100Sを活用できるフィールドがずいぶん広がりました。
中判カメラの魅力の一つに、絞りをパンフォーカスまで絞り込んで目の前の光景を鮮明に記録するというシーンがあるかと思います。
手持ち撮影の場合、そのような状況ではISO感度とシャッタースピードとの兼ね合いになるのですが、ボディ内手ぶれ補正が優秀なのでISO感度をそこまで上げることなく撮影することが可能です。
三脚が使えればいいんですが、足場が悪かったり、そもそも三脚の使用が禁止されている状況などもあります。
優秀な手ぶれ補正機能は、初心者の失敗を助ける補助機能にもなりますが、写真に精通した人間が使う際にも、今まででは不可能だったシーンでさらにもう一歩限界を超える手助けになる機能だと思います。
インプレッション
人物撮影
建築写真撮影と作品制作で使用することを考えて導入したので、人物撮影などで使いにくいことは想定していましたが、実際使用してみると意外と撮ることができます。
やはり不規則に動き回る子どもを撮影するのは難しいですが、座っていたりある程度動きが少ない場面だと子どもの撮影でも使用できました。
子どもの一瞬を逃さず撮影したい方には、オートフォーカス性能やレスポンスに定評のある、SONYαシリーズやCanonのミラーレスを素直にお勧めします。
FUJIFILM GFX100Sの名誉のために言っておくと、センサーサイズの大きい中判カメラとしてはこれでもかなり優秀だと思います。
動きを指示したり、予想できる大人を撮影する場合には問題なく撮影できます。
ただ1億画素で人物撮影をする必要性があるのかどうか疑問です。
GFXで人物撮影されている方の多くは、高画素数にこだわっている訳ではなく、ラージフォーマットで富士フイルムの色再現設定「フィルムシミュレーション」 を使いたいからだと思うので、像面位相差AFで3,000万画素くらいの新型GFXがもし発売されたら一番喜ばれるんじゃないでしょうか。
機材には適材適所というものがありますので、一つのカメラで全てのシーンを撮ろうとする必要はないと私は思います。
操作感
巨大なデータサイズを誇る1億画素機ということで、カメラ自体の動作速度やレスポンスの緩慢さが心配でしたが、それはほぼ杞憂に終わりました。
撮影画像の書き込み時間、再生画面での拡大、スクロールもスムーズで業務で使用していてストレスは感じません。
めちゃくちゃサクサク動くってことはないけれど、特に不満はないかなってくらいです。
余談ですが、JPEG単体記録時と比べると、RAW記録時は少しだけシャッター後のラグが増加します。
書き込みの時間が増えるのはわかるんですけど、シャッターフィーリングまで変わるのはなんだか不思議です。
Lightroom classicでの動作
FUJIFILM GFX100SのRAWデータのサイズは一枚100MB〜200MBほどにもなりますので、業務で使用する上でPC作業の負荷がどれほどのものか心配していました。(データサイズによるストレージの心配ではなく、現像作業時の円滑にソフトが動くかの心配)
MacBook Pro メモリ64GB(M1 Max)では普通に動きますが、コピーペーストの処理やスクロールが遅延したりする時があるのでやはり負荷は大きいようです。(もしかしたら外付けHDDがボトルネックになっているのかも)
またPhotoshopや動画編集ソフトを同時使用した際には簡単にメモリ使用量が上限に達してしまい動作が遅くなりますので、メモリの使用量には注意を払う必要があります。
アプリによるワイヤレスシャッターが実用的で使える
わずかな振動も許されない建築撮影では、リモートレリーズケーブルもしくはワイヤレスシャッターを使用するのが基本です。
私はワイヤレスシャッター派なのですが、GFXを業務に導入する際に一番気掛かりだった点が、富士フイルムには純正のBluetoothワイヤレスシャッターが存在しないことでした。
どうしようかなと考えていたところ、富士フイルム純正のカメラアプリ「FUJIFILM Camera Remote」を試しに使ってみたらこれが非常に快適で「もうこれでいいや」となりました。
カメラとスマートフォンのペアリングが済めば、精度良くリモートシャッターを切ることができ、(アプリではない)普通のBluetoothワイヤレスリモコンと同じような感覚で使用できます。
たまに接続が切れることもありますが、再接続も非常に速いので現場で困ることも少ないです。
※iOSでの使用感です
メーカー純正アプリは接続が不安定だったり、一度接続が切れると再接続が面倒だったりであまり良いイメージがなかったのですが、これは嬉しい誤算でした。
ちなみに上記はワイヤレスレリーズのみの使用感であって、それ以外の機能(画像の自動転送など)は一切使っていないので無評価です。
バッテリー持ちはよくない
SONYαシリーズとの比較になりますが、体感ではαの半分ほどしかバッテリーが持たないイメージです。
業務で一日使用する場合、2〜3個は予備バッテリーを使用します。
センサーサイズが大きいので電力消費も増えてしまうのはしょうがないところでしょう。
デジタルカメラではライブビュー状態を長く続けることが一番バッテリー消費に影響しますので、私の建築撮影業務での使い方はかなりバッテリーライフに不利な使い方である点を補足しておきます。
ただし、プライベートでスナップで使用する場合、小まめに電源オフしながら使うことでかなりバッテリーを節約することは可能です。
一度バッテリー交換を忘れて40%くらいの残量でスナップ撮影に行ってしまったんですけど、上記の方法で2時間くらいの工程でなんとか140カットほどを撮り続けることができました。
まとめ
最高の業務用カメラでもあり、最高のプライベートカメラでもある
FUJIFILM GFX100Sを導入して非常に満足しています。
写真家として、今まで出来なかったことが出来るようになったということが一番ですね。
ラージフォーマット、1億画素、ボディ内手ぶれ補正、色再現、一眼レフと同等サイズに収められたサイズ感、これらが高いレベルで融合した結果、業務はもちろんプライベートにも気軽に持ち出せるカメラとなりました。
昔、PENTAX 645D(GFX100Sと同じ44×33mmサイズのセンサー搭載機)を使わせていただいたことがあるのですが、重量やデータの記録速度など色々不便なことは多いけれど画質は抜群と感じました。
それから10年近く経って、中判デジタルカメラもここまで進化したのかといった感慨深いものがあります。
ちなみに実は最初に購入した際に、絞りを操作できなくなる初期不良に当たってしまい、購入店で初期不良という形でカメラを交換してもらいました。
富士フイルムのサービスセンターの方々も初めて見る症状だと言っていましたが、単純に運が悪いんでしょうかね。
交換してもらった機体ではそういったことや不具合は起こっていません。
富士フイルムのカメラを業務で使用するのは今回が初めてなので、カメラの信頼性という面でまだ不明な点もありますが、それはある程度長い期間を経て判断できることですので、また今後確認したいと思います。