フジノンレンズ GF20-35mmF4 R WR
関西を拠点に活動しております、建築写真家の貝出翔太郎です。
先日富士フイルムから登場した広角ズームレンズ「フジノンレンズ GF20-35mmF4 R WR」。
建築写真家待望の、GFXシリーズ初の広角ズームレンズ(35mm判換算16-28mm)です。
発売日に入手し、FUJIFILM GFX100Sとの組み合わせで仕事の撮影や作品撮りで使用してきました。
結論から言いますと、お世辞抜きに今まで使用してきた広角レンズの中で最も優れた描写力を持つレンズです。
軽量コンパクト
手に取った際の第一印象として、まずとても軽量コンパクトです。
この大きさと軽さで本当に中判デジタルカメラの広角レンズなのかと、拍子抜けするぐらいです。
FUJIFILM GFX100SやGFX50SⅡと組み合わせて使った場合、Canon EOS 5Dクラスのフルサイズ一眼レフカメラと、一眼レフ用のEF16-35mm F4L IS USMを組み合わせて使用している時の感覚とほぼ同じ重量感と携帯性です。
普段からスナップ撮影でも重量級のティルト・シフトレンズなどを使ったりしている人間なので、FUJIFILM GFX100SとGF20-35mmF4 R WRの組み合わせでは、長い時間散策しても負担を感じませんでした。
望遠端の焦点距離が、35mm判換算で28mmまでですが、FUJIFILM GFX100Sとの組み合わせでは圧倒的なトリミング耐性があるので全く問題なしです。
フィルター径が、Canon TS-E24mm F3.5L llやGF45-100mmF4 R LM OIS WR などと同じ82mmなのもポイントです。
画質
解像度
作例を観ていただければお分かりいただけると思いますが、画面全域で非常にシャープで凄みを感じるほどによく写ります。
目の前の光景が、圧倒的な情報量でそのまま忠実に描き出されるといった印象です。
絞り値による解像度の比較
自分の機材の性能を把握する意味で、撮影画像を拡大して描写の細かなチェックを行いました。
FUJIFILM GFX100SとGF20-35mmF4 R WRの組み合わせで、ズーム域20mmで撮影された上記のアングルの写真より、絞り値を段階的に変化させてその解像度をチェックしていきます。
以下は黄色で囲った中央枠の拡大画像。(画像クリックによる拡大可)
以下は水色で囲った周辺枠の拡大画像。
画質検証結果
今回の検証では、開放絞りF4からほぼ最大に近い解像度で、最も解像度の高い絞り値はF5.6からF8となりました。
F11からは回折現象の影響が出始めており、F22まで絞ると顕著にソフトになっています。
他のズーム域でも同じく検証しましたが、おおよそ同じ結果になりました。
FUJIFILM GFX100SとGF20-35mmF4 R WRの組み合わせでは、風景撮影や建築撮影で単純に最高の解像度を求めるのならF5.6からF8がベストの絞り値だと思います。
ただし、これらの検証は画像の一部を極端に拡大し、レンズの性能の限界値を測ったものになります。
F11やF16でも十分によく写っていますし、今までの経験上ほかのレンズと比較して考えたときに、このレンズのF11やF16でも驚異的な解像度と言えます。(後半に他社広角レンズとの比較あり)
GF20-35mmF4 R WRを使用する場合は、被写界深度との兼ね合いで絞り値を選択していけばいいでしょう。(F22だけは避けた方がいいかもですが)
また、1億画素ではなく5,000万画素のGFX50シリーズでは、回折現象の出方は今回の検証結果と同じにはならないかもしれません。
歪曲収差
GF20-35mmF4 R WRのもう一つの特筆すべき性能は、その歪曲性能です。
歪曲収差はほぼ発生せず、画面全域で気持ちよい直線で描写されます。
一般人の求める歪曲性能と建築写真家の求めるそれとでは差があるのですが、このレンズは建築写真家が満足できるレベルの歪曲性能(歪みのなさ)だと断言できます。
正直、歪曲収差がひどかったら手放さざるを得ないと思って購入したのでこの点は安心しました。さすが富士フイルムさんです。
歪曲収差の補正は、光学的な補正ではなく電子補正に完全に依存しています。
歪曲補正を電子補正に依存することによって、これほどまでの解像度と軽量コンパクトな本体を共存させることができているんでしょう。
もちろんファインダー上でも電子補正適用後の状態で表示されるので、現像時にわざわざレンズプロファイルを外さない限り下記のような醜い状態にはなりません。
またこのレンズの発売日初日から、現像ソフト「Adobe Lightroom classic」ではレンズプロファイルが適用される状態になっているので、その辺も心配無用です。
一般的に歪曲収差の過度な電子補正には周辺画質の低下というデメリットがありますが、GF20-35mmF4 R WRに関してはレンズの元々の性能が高いからなのかそういった欠点も認められません。
近距離でも歪まない
建築写真家として最も驚いたのは、超近距離での撮影時にもほとんど歪曲収差が発生しない事です。
ゼロディストーション(歪曲収差0)を謳っているレンズでも、超近距離撮影時には歪みが発生するケースが多々あります。
屋内の狭い空間で建築撮影をすることがありますが、レンズからほど近い縦線であってもきっちり真っ直ぐに写ります。
GF20-35mmF4 R WRを初導入した実際の建築撮影業務では、構図決定から撮影までが非常にスムーズで、スパスパとアングルが決まっていくような感覚を覚えました。
電子補正依存ではありますが、もはや「ゼロディストーション」を名乗っていいと思う。
色収差
建築写真家にとって倍率色収差(絞っても解決しない色収差)の影響が強いレンズは、建築写真撮影時に光源や窓の縁取りなどでフリンジが出てしまうので、後処理に非常に気をつかいます。
GF20-35mmF4 R WRの倍率色収差に関して、様々なシーンで撮影しましたがほぼ発生しない印象です。
下の作例とその拡大画像を見ていただければお分かりいただけるように、いかにも倍率色収差が発生しやすいシーンですが一切発生していません。
ちなみにAdobe Lightroom classicでは画像取り込み時に、自動的に色収差除去ONになりますので全てその状態での感想になります。(手動での色収差除去は行っていません)
下記のような極端な輝度差のある状態で、左側の柱の縁に少し色収差が発生していますが、こちらもとてもよく補正されている印象です。(絞りF5.6なので軸上色収差かも)
逆光耐性
広角端20mmで太陽にレンズを向けた際には、大きめのゴーストやフレアが発生したカットがありましたが、それらは逆光耐性を知るために意図的に出そうとしたカットだったので、逆光耐性もそれなりに優秀な印象です。
広角レンズなのでゴーストは出る時は出てしまいますが、業務で使用する際にはハレ切りするので問題ないかと思います。
インナーフォーカス
本レンズはズーム操作によりレンズの全長が変化しないインナーフォーカスです。
インナーフォーカスのレンズを使うのは初めてだったのですが、スナップ撮影時にレンズの外見からズーム域がわからないので少し操作に戸惑います。
もちろんレンズ上部には焦点距離の目盛りがあるので、レンズに目をやれば何mmを使用しているか把握できるんですけど、撮影に集中しているとレンズの形状でズーム域を判断する癖(レンズが伸びていたら望遠側、収まっていると広角側という風に)が出てしまう時がありました。
おそらく写真の経験が長い人ほど違和感を感じると思います。
ただし、使っているうちに段々気にならなくなってきましたし、ズーム操作によるレンズのバランスが変化しないというインナーフォーカスのメリットの方を感じるようになりました。
他社35mm判レンズの写りと比較してみる
SIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Artとの比較
同位置にて「GF20-35mmF4 R WR」と「SIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Art」を、設定を同じ状態(焦点距離20mm,FUJIFILM GFX100Sにて使用 F16,SS1/50,ISO100)にして比較します。
左がGF20-35mmF4 R WR、右がSIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Artになります。
(SIGMAのカットで太陽が隠れたのでコントラストや発色に影響が出ていますがそれを差し引いても)一目でわかるほどの解像度の差があります。
Canon TS-E17mm F4Lとの比較
同位置にて「GF20-35mmF4 R WR」と「Canon TS-E17mm F4L」を、設定を同じ状態(FUJIFILM GFX100Sにて使用 F16,SS1/50,ISO100)にして比較します。
ただし、GF20-35mmF4 R WRの焦点距離は20mmが最広角なので、今回は焦点距離20mmにて比較。
左がGF20-35mmF4 R WR、右がCanon TS-E17mm F4Lになります。
ここでも一目瞭然で、GF20-35mmF4 R WRの方が優れた描写をしています。
Canon TS-E17mm F4Lが発売された時代は、まだ最高画素数2,000万画素そこそこの時代だったはずなので、解像度で1億画素機に対応できる訳がないことは当然ですね。
しかし、長年愛用しているCanon TS-E17mm F4Lが、ここまで差を見せつけられるとなんだかそれはそれでショックです。
Canon TS-E24mm F3.5L llとの比較
同位置にて「GF20-35mmF4 R WR」と「Canon TS-E24mm F3.5L ll」を、設定を同じ状態(FUJIFILM GFX100Sにて使用 F16,SS1/50,ISO100)にして比較します。
ただし、GF20-35mmF4 R WRの焦点距離24mmを撮り忘れたので、今回は焦点距離20mmにて比較。
左がGF20-35mmF4 R WR、右がCanon TS-E24mm F3.5L llになります。
やはりGF20-35mmF4 R WRの方が優れていますが、Canon TS-E24mm F3.5L llは焦点距離が24mmということもあり、SIGMA 12-24mm F4 DG HSM | Art や Canon TS-E17mm F4Lよりも設計的に無理をしていないためか、一番健闘しています。
比較結果
やはり1億画素対応を念頭に設計された、GF20-35mmF4 R WRの画質が段違いに優れていることが証明されました。
ただし、今回比較した3本のレンズには、超広角を写すことや、シフトして撮影することなど、これらのレンズでしか不可能な領域での撮影が可能です。
またその描写力に関しても、本来ならば十分優秀とされる広角レンズです。
しかし、GF20-35mmF4 R WRと比較してしまうと、どのレンズもどうしても見劣りしてしまうことは間違いありません。
GF20-35mmF4 R WRは、次世代の広角レンズだと言って差し支えないでしょう。
まとめ
最高画質のレンズを常に持ち歩ける
「フジノンレンズ GF20-35mmF4 R WR」は、本当に驚くべき性能です。
冒頭でも述べましたが、今まで使用してきた広角レンズの中で最も優れた描写力を持つレンズでしょう。
それでいて中判レンズとしては、軽量コンパクトで長時間の持ち歩きも苦になりません。
奈良を長時間散策した際には、GF20-35mmF4 R WRとGF45-100mmF4 R LM OIS WRの2本のレンズを持ち歩き、要所要所で交換しながら撮影しましたが、この2本のレンズは完璧な組み合わせだと感じました。
GF20-35mmF4 R WRには手ぶれ補正は搭載されていませんが、元々手ぶれの発生しにくい広角レンズという事と、FUJIFILM GFX100Sのボディ内手ぶれ補正のお陰で、日没後でも絞りを開放にせずとも鮮明に撮影することが可能となります。
ようやくFUJIFILM GFX100Sのポテンシャルを、最大限に発揮できる広角レンズに出会えました。
このレベルの広角ズームレンズを開発してしまう富士フイルムですから、発売が控えているGマウント初のティルトシフトレンズ「GF30mmF5.6 T/S」の写りにも俄然期待してしまいますね。
さらには、「GF30mmF5.6 T/S」を超える超広角ティルトシフトレンズの開発もぜひお願いしたいところです。