TS-E17mm F4Lとは
「 TS-E17mm F4L」は、Canon EFマウントの超広角ティルト・シフトレンズです。
ティルト・シフトレンズ自体の説明は、過去記事「ティルト・シフトレンズで建築写真を撮影する方法」をご覧ください。
発売は2009年なので、発展著しいデジタル一眼カメラの交換レンズとしてはかなり古い部類に入ります。(ちなみに「TS-E24mm F3.5L II」と同時発売)
しかし、いまだにその特異性と性能に対する評価は高く、2021年になった現在でも多くの建築写真家が愛用しているレンズです。
長所
圧倒的な画角
まず何よりアオリ操作可能なシフトレンズの35mm判で、超広角17mmという圧倒的に広い画角を誇ります。
カメラの大手メーカーでシフトレンズを各種取り揃えているのはCanonとNikonのみで、シフトレンズを使いたいカメラマンはその2社から選ぶ必要があったのですが、Nikonのティルト・シフトレンズ(PCシリーズ)の最広角は19mmで、Canonよりも2mm画角が狭くなります。
20mmを下回るような超広角レンズでは2mmの焦点距離の差はかなり大きくなりますので、狭小住宅が多く道路幅が狭い日本の住環境では、より広い範囲を撮影できるティルト・シフトレンズとして「 TS-E17mm F4L」を要するCanonのデジタル一眼カメラが重用されています。
ただしNikonの「PC NIKKOR 19mm f/4E ED」は発売が2016年と新しく、おそらく単純な画質性能的には「 TS-E17mm F4L」よりも優れていると思われます。
それでもCanon「 TS-E17mm F4L」のティルト・シフトレンズでありながら17mmという驚異的な画角には、他の物には変えられない価値があるという事です。
ちなみに2021年に中国のレンズメーカーであるLAOWAから、「15mm F4.5 Zero-D Shift」という更に広角なシフトレンズも発売されたので最広角シフトレンズではなくなりました。(最広角ティルト・シフトレンズではありますが)

歪曲
このレンズの開発目的が建築写真撮影を主としているはずなので当たり前の事ですが、歪曲収差(ディストーション)はかなり抑えられています。
近景の前景部分などに樽型の歪曲が発生しますが、修正は比較的容易です。
歪曲収差がひどいレンズは建築写真撮影では使えませんので、この部分は最重要の評価項目です。
解像力
発売が古いので気になる方も多いと思いますが、解像力に関しては4,200万画素のSONYα7RⅢや4,500万画素の Canon EOSR5で使用する場合でも全く問題なく解像してくれます。
SONYα7RⅣなどの6,000万画素機では使用した事がないので分かりませんが、おそらくそれほど問題はないのではないかと思っています。
ちなみに今回の評価は基本的にF値を絞り込んだ状況での評価になります。
ただし最新のミラーレス専用設計の広角レンズと比較すると解像力は劣ります。
実務上問題ない範囲の解像力といった評価です。
操作性
ティルトとシフトの移動方向を直交から平行まで0~90°の範囲で設定できる「TSレボルビング」システムは、しっかりとした造りで滑らかで正確な操作が可能です。
シフト機構はノブの固さの調節が可能で、確実に任意のシフト量で固定する事ができます。
ちなみに私の「 TS-E17mm F4L」はシフトノブをより大きなシフトノブ(純正)に換装しています。
建築写真を撮影する方はシフトノブは変更した方が操作しやすいですよ。

また、普段ティルト機構は使用しませんが、CanonのTS-Eシリーズは未使用時にティルトノブをロックする事ができるので誤作動の心配もありません。
この辺の操作性がプロとしてCanon製品を使う安心感というか、Canonは流石だなといったところです。
短所
逆光性能
めちゃくちゃに弱いです。
前玉に光が届くような撮影状況ですと、ほぼ確実にレインボーカラーのゴーストが発生します。
元々レンズの前玉が魚眼のようなドーム型なので設計上逆光性能的には不利だと思いますが、それでも昨今の前玉ドーム型レンズではコーティングの進化により逆光性能が向上してフレアやゴーストも抑えられているので、「 TS-E17mm F4L」の逆光性能には設計の古さを感じずにはいられません。
最近のコーティングが高性能なデジタル一眼用レンズしか使った事がない人が、初めて使用したらたぶん驚くんじゃないかな。
このレンズを使う者にとって「ハレ切り」は必須というか宿命です。



解像力(条件付き)
先ほど長所として解像力を挙げましたが、短所としては画像周辺部の解像力はそれほどといったところです。
通常のイメージサークル内で使用する分には解像力に問題は感じませんが、シフトした際の周辺部の画質は明らかに劣化していきます。
必要がなければシフト量は程々に抑えることをお勧めします。
フリンジ
後処理で消すことは可能ですが、紫色や緑色のフリンジが発生します。
建築写真でいうと主に、電線や建築物のキワに発生しますのでレタッチ時は注意が必要です。
マニュアルフォーカス
私自身は短所だと思っていませんが、「 TS-E17mm F4L」はマニュアルフォーカスのみのレンズですのでオートフォーカスができません。
というよりTS-Eシリーズ含め、世の中のティルト・シフトレンズは現状全てマニュアルフォーカスです。
ピントリングは軽めの操作感で希望としてはもっと重めの方が良いですが、建築撮影時には特に問題もなく、ライブビューのピント拡大で確実にフォーカスを合わせられます。
ちなみに私はプライベートでは「 TS-E17mm F4L」を手持ちスナップ撮影によく使用しています。
ミラーレス一眼であればEVF(ファインダーのこと)のピント拡大で普通にスナップでも活用できます。(一眼レフでは無理だと思う)

建築写真作例
新型(後継機)のうわさ
建築写真撮影業務においてほぼ必須とも言える「 TS-E17mm F4L」ですが、発売から時間も経ち設計の古さも目立つ本レンズ。
うわさレベルですが、Canonから後継機となる新型の超広角ティルト・シフトレンズ「TS-R14mm F4L」「TS-R24mm F3.5L」の発売も近いようです。
特に「TS-R14mm F4L」は「 TS-E17mm F4L」から更に3mmも広角に撮影できるレンズのようで、建築写真家としては発売を期待してしまいます。
おそらく逆光耐性にもかなり力を入れてくるでしょうし、なんとオートフォーカスにも対応しているとの情報です。(仕事ではオートフォーカスいらんけど)
いま「 TS-E17mm F4L」の購入を検討している方にはかなり悩ましい状況ですが、新型が発売されるまで待ってみてもいいかもしれないですね。
おそらく新型が発売されると「 TS-E17mm F4L」や「TS-E24mm F3.5L II」は今より多く中古市場に出回るでしょうし、新型の値段と天秤にかけてから判断してもいいと思います。
ただ新型の「TS-R14mm F4L」「TS-R24mm F3.5L」は、おそらくCanon RFマウントでの発売になりそうですので、SONYαなど他社のフルサイズミラーレスでマウントアダプター経由での使用を検討している場合は、現行のEFマウント一択になりますので新品で購入できるうちに買ってしまうのも手ではありますね。